
渡部潤一館主ごあいさつ
世界天文年2009日本委員会企画委員長
(国立天文台天文情報センター長)
「宙読み書房へようこそ」
みなさんは最近、星空を眺めたことがありますか? 見上げるだけで、そこには本来、たくさんの星たちが輝いていたはずなのですが、都会ではなかなかお目にかかれなくなってしまいました。同じように、星空や天文学の本も、書店から消えつつあるように思います。でも、灯火の少ない場所に行けば、まだまだ天の川が雲のように夜空を横切り、星たちが昔と変わらずに輝いています。その美しさ、不思議さをもっと知ってほしい。まずは机上からでもいいので、もっと宇宙の謎に触れてほしい。そんな思いから、私たち世界天文年2009日本委員会は『世界天文年2009星空ブックフェア』を企画しました。
星空ブックフェアオンラインは、その総合案内サイトです。図書館の雰囲気をイメージした内装にして、ちょっと洒落て「宙読み(ソラヨミ)書房」の表札を掲げてみました。館内には、日本委員会が選定した書籍の案内を中心に、さまざまな情報サービスがあります。
実際の本屋さんの店頭では、全国の書店さんや取次ぎさんのご協力も得て、すでに4月から全国約400の店舗で星空ブックフェアを開催しています。これからさらに開催書店が増えて、1000店近い書店さんが、星空ブックフェアにご参加いただける予定です。店頭で日本委員会が公認した星空の、そして天文学の良書を手にとってみてください。店舗によっては、独自に選定された本が並んでいるかもしれません。もし気に入ったものがあれば、ぜひご購入の上、じっくりと読んで頂ければと思います。また、これから独自にフェアを開催したいと考えている書店さん向けのサービスも提供していきたいと思います(宙読みカフェのおしらせをご参照ください)。
さらに、書店のブックフェア開催に合わせるように、全国各地の公共図書館や学校図書館などから、自主的な星空ブックフェアの開催報告が日々寄せられています。これは望外の喜びで、図書館向きの「星空ブックフェア」の楽しみ方、利用のしかたについても情報を充実させていきたいと思います(宙読みカフェのおしらせをご参照ください)。
もちろん、星空ブックフェアの主役は、読者のみなさん一人一人です。この世界天文年を契機に、書籍の中の宇宙から実際の満天の星空へ、その無限の面白さと不思議さを体験して頂ければと思います。
渡部館主の 宙読みの一冊 07冊目 (11月10日掲載)
『ほしのメリーゴーランド』寮 美千子 著、鯰江光二 絵 フレーベル館 自分の著書はもちろんですが、これまで監修や執筆を通じて、さまざまな本作りに関わってきました。もう数年前のことでしょうか、はじめて絵本の監修を頼まれました。絵本というのは文字数も少ないし、それほど大変ではないだろうと、軽い気持ちで引き受けたのが間違いでした。アイデアが実現に至るまでの細かなチェックだけではなく、作者、画家、そして編集者それぞれの思いが交錯しつつ、ひとつひとつの言葉を大事に紡いでいく、とても長い製作期間に正直、驚きました。もちろん、私の役目は「科学的に正しいかどうかについてチェックすること」でした。しかし、もとより想像の世界を描く絵本ですから、おのずと限界もあり、また現実の世界に忠実にするべきか、それとも仮想世界を優先させるかの線引きも考えれば考えるほど難しいことでした。そのバランスが偏っていると、妙に教科書臭がしたり、逆にリアリティに欠けすぎていたりしてしまいます。 『ほしのメリーゴーランド』は、そんなバランスが見事にとれた宇宙絵本です。ひなちゃんが星の世界に遊びに行くお話ですが、リアルな天体写真を活用して、土星の環が滑り台になったり、星雲が綿飴になったり、彗星がジェットコースターになったりと、その応用が見事です。時間感覚も空間感覚も、まだまだ宇宙に浮いているような小さな子どもたちにとっては、この本を読むことが、すてきな体験となるに違いありません。 もちろん、私が貴重な経験をさせてもらった絵本(『おおきくおおきくおおきくなると』)も、もちろん世界天文年公認書籍となっています。今宵、世界天文年公認の絵本を読み聞かせてみませんか? |
渡部館主の 宙読みの一冊 06冊目 (10月20日掲載)
『天文台日記』石田五郎 著 中公文庫BIBLIO それは小学校6年生の夏休みのこと。父の実家の小さなパン屋さんに遊びに来ていました。しばらくして店で遊ぶのにも飽き、なにげなく近くの本屋に入った時のこと。その本のタイトルが目に止まりました。 『天文台日記』。 中もろくろく見ずにお金を払うと、小走りに戻った私は、時が経つのも忘れてむさぼり読みました。当時、日本一大きな光学望遠鏡がある国立天文台・岡山天体物理観測所(当時は東京大学東京天文台)に勤める天文学者の一年間に渡るエピソードを、日記の形をとって綴ったエッセイ集です。その本から伝わってきたのは天文学者たちの宇宙への情熱であり、新しい発見の興奮であり、そして望遠鏡の保守に使命観を燃やす職員の活躍でした。ときどき織り込まれる瀬戸内の四季の美しい風景も。この本を初めて読んだときの胸の鼓動を、今でもはっきりと覚えています。 当時の私は、天文学者に漠然と憧れてはいましたが、その仕事がいったいどんなものなのか、よくわかっていませんでした。それまで、そして何冊か天文学の本を読んでみましたが、そういった本には天文学の解説はあっても、天文学者とはどういった仕事をしているのか、あるいは天文台の職員はどんな人なのか、など人間の側面を知ることはできませんでした。ですから、この『天文台日記』は、まさに当時の自分が知りたかった内容ずばりの本だったのです。 本書に描かれた一人の天文学者の淡々として星と向き合う生活に、私の漠然とした憧れは強烈な夢へと変わり、中学・高校を通じて私はこの本をいつも本棚の見えるところに並べて勉強したものです。もちろん、天文学者の研究スタイルは当時とはずいぶんと変わっています。しかし、未知なるものへの探求心と努力とそこから得られる新しい結果を目の当たりにする感動は、いまでも同じ。静かな情熱を日常生活の中に埋め込んで、それを淡々と語る名作です。ちなみに、私の人生を決めてしまった『天文台日記』は、今では亡き著者のサイン入りとなって、私の本棚に並んでいます。 |
渡部館主の 宙読みの一冊 05冊目 (9月1日掲載)
『銀河鉄道の夜』宮澤賢治 著 新潮社/新潮文庫 ほか多数 皆さんは天の川を見たことがありますか。見たことがあるとすれば、それは最近でしょうきあ。都市化が進む日本の夜が便利な人工光に満たされる一方、夜空からは星たちの姿が消えていきました。星座を結べない夜空に、天の川を眺めることはなかなか困難です。 筆者は東北地方に育ったこともあって、子供の頃に天の川に出会いました。闇に淡く浮かびあがる光芒は、見た者に様々な想像をかき立てます。「銀河鉄道の夜」を初めて読んだ時、宮沢賢治も東北の真っ暗な星空を流れる天の川を実際に見たのだ、と直感しました。 「銀河鉄道の夜」は、主人公の小学生ジョバンニが、町はずれの丘で天の川を眺めながら寝込むところから始まります。夢の中で友人カンパネルラと一緒に天の川を下る鉄道に乗って体験する数々の不思議。永遠の友情や愛という難しいテーマを、宇宙という別の意味で理解困難な世界に投影して描いた傑作といえるでしょう。 登場する数々の星々や星座のほとんどが実在しています。出発駅ははくちょう座、別名・北十字で、夏なら頭上に輝いています。アルビレオの観測所は、おそらく岩手県奥州市の緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)、そこでまわりあう青宝玉と黄玉の球は、全天一美しい二重星アルビレオ。鷲の停車場は七夕の彦星のあるわし座。蠍の火はさそり座のアンタレスという赤い一等星。石炭袋や、終着駅の南十字星も南半球でよく見える天体です。時々、挿入される逸話も、インディアンや鶴などの実在の星座にヒントを得ています。北十字から南十字への旅こそ賢治の宗教的思想の現れでしょう。 この季節、皆さんも天の川を眺める旅はいかがでしょう。夜空の暗い場所、例えば各地の天文台などへ出かけて、失われつつある天の川や、登場する星座たちをこどもたちと一緒に眺めてみてください。本物を見た後に読む「銀河鉄道の夜」は、また格別であることは、天文学者の私が保証しましょう。 |
渡部館主の 宙読みの一冊 04冊目 (8月1日掲載)
『リセット』北村 薫 著 新潮社/新潮文庫 今回は、第137回直木賞受賞に輝いた北村薫さんの作品から「リセット」を取り上げたい。時を越える北村作品の「スキップ」、「ターン」の続編といえる小説である。太平洋戦争末期、神戸在住の女学生の水原真澄のほのかな恋は、しし座流星群を眺めてみたいという希望共々、時代の流れに大きく翻弄されていく。やがて時を越え、1960年代。高度成長にわく時代を背景に、自宅で小学生に絵本や児童書を貸し与える水原の目の前に現れたのは……。愛し合う魂が、しし座流星群という33年ごとにやってくる天文現象を媒介にして、再び出会う。「また、会えたね」と。そんな宇宙の奇跡、時空を越える壮大な愛の物語を、フィクションの中だけでいいから、信じてみたいと思わせる力作長編小説である。その読後感は33年に一度のものかもしれない。 |
渡部館主の 宙読みの一冊 03冊目 (7月15日掲載)
『火の島』新田次郎 著 新潮社/新潮オンデマンドブックスにて入手可能 http://www.shinchosha.co.jp/book/865297/ どうして、この小説がこの欄に登場するのか、いぶかる方も多いでしょう。読んだことのある人なら、ピンとくるかもしれません。私が知る限り、日本の小説の中で、そのクライマックスに流星群が効果的に登場するものは他にありません。火の島は、活火山島である鳥島です。昭和40年11月、大噴火寸前の鳥島測候所を舞台に、測候所職員として、火山活動の観測という自らの使命を全うしつつ、ぎりぎりでの避難を試みるストーリー。決死の覚悟で仲間の救助へ向かった船。その時、流星群が……。新田は元気象庁職員であっただけあって、描写も実に正確でリアリティーに満ちています。無骨な文体は、いまはなかなかはやらない類のものですが、読み進めるうちに次第に引き込まれてしまいます。新田文学は山岳物、歴史物のイメージが強いのですが、こうした天文について取り上げた小説もいくつかあり、天文学者そのものが主人公の『永遠のためいき』も、読んでみると面白いでしょう。その描写も正確なのは、友人に同じ諏訪出身の故・古畑正秋元東京天文台長がいたからといわれています。 |
渡部館主の 宙読みの一冊 02冊目 (7月1日掲載)
『星三百六十五夜 春・夏・秋・冬』野尻抱影 著 中央公論新社/中公文庫・の44-47 天文ファンであれば、一度は読む野尻抱影氏の数々の名作。英文学者でもあり、冥王星の日本語名の提案者でもある彼の作品は、日本の星空文学の中では最高峰ではないでしょうか。中でも、本書は毎日一話形式で、星空にまつわる様々な物語を紹介したもので、春夏秋冬それぞれの星や星座にまつわる古今東西のエピソードや、当時の最新天文学の話題、彗星・流星などの現象を、独特の文体で印象深くつづっています。確かに、内容としてはやや古いのですが、そこは逆に当時の世情などが垣間見える面白さがあって、かえって魅力的です。私は高校生の頃、年上のいとこから、おそらく古本屋で入手したと思われるハードカバー本をプレゼントしてもらい、夢中になって読んだ覚えがあります。現在は、単行本の方は入手困難ですが、季節毎に文庫化されています。 |
渡部館主の 宙読みの一冊 01冊目 (6月19日掲載)
『星界の報告』ガリレオ・ガリレイ著 岩波書店/岩波文庫・青906-5 ガリレオが自ら望遠鏡を造り、それを夜空に向けたのは1609年から1610年にかけてのことです。そこは驚異の世界でした。水晶の球のように滑らかだとされていた月に存在する山や谷、そして盆地のような窪み(クレーター)。木星のそばを動き回る4つの星(ガリレオ衛星)。そして、天の川が無数の星でできていることを発見したのです。 誰も見たことのない宇宙の姿を目にしたガリレオは、そのスケッチとともに、即座に本書『星界の報告』を書き上げました。出版は1610年3月という異例の早さであるところにも、興奮さめやらぬガリレオの心情がよく現れています。 特に注目は木星の項。「4つの星は木星とともに12年の周期で太陽の周りを大きく回転している。同時に地球のまわりの月とおなじく、木星のまわりをも回転している。感覚的経験がこのことを示している今、惑星が二つ、太陽の周りに大きな軌道を描きつつ、同時に一方の惑星のまわりを他の1つがまわるということが、どうして考えられないか」と述べ、観察を通じて、彼が地動説へ傾倒していく様がありありと窺える、古典的名著です。 |



『銀河鉄道の夜』
『リセット』

